「トーコこそ
自分の部屋に帰らないの?」


「…だってあの部屋
寒いんだもん」


コートに
ブーツでも履いてなきゃ

絶対に凍死するッ。


「昔の女中さんは
それでも文句言わず
あの部屋で耐えてたんだぞ」


なんて

自分だけ

あったかい
カノンくんの部屋に
通されていたセイにだけは

言われたくないッ。


「だいたいッ
カトーさんの感覚が
おかしいと思うッ」

客人を
暖房設備も器具もない
女中部屋に通すなんて

あまりにも
非常識で。


「あの部屋しか
カギが
かからないからじゃないの?」


一応、オンナノコだからって
気を遣ったんじゃないの、って


セイが珍しく
カトーさんの肩を持った。


「だったら
セイがあの部屋に
寝泊まりさせて貰えばッ?」


「ふたりハダカで

お互いの体温で温め合うのも
一興だな」


セイが嬉しそうに
私を横目で見ててッ。


「ハダカになった途端
凍死するわよッ」


私の一喝に


「夢がないの〜」って

セイがコタツの天板の上にに
ちょこんとアゴを突き出して

溜息をつく。


「カトーさんが戻ってきたら
自分の部屋に

ひとりで、戻るからッ」


「ひとりで」というコトバを
特に強調してみせた。


「カトー、帰ってくるのかね」

「……」

「あのオバサンの部屋で
お泊まりするんじゃないの?」

「……」