少年の思惑編


「トーコ、おまえ
何持って来てるんだ?」

「あはッ?」

セイに指摘され
思わず両手で抱え込んでいた
湯たんぽを

私は笑ゴマしながら
コートの中に隠した。


「そんなジャケット1枚で
セイこそ寒くないの?」


「そんなモノ持ってたら
いざというとき
逃げ遅れても知らないぞ」


「そんな〜ッ。
意地悪言わないでよおおお」


私は

どんどん先を
歩いて行こうとするセイの
デニムのジャケットの背中を

しっかと握った。


…この地下へと続く
秘密の通路は

どこからか
冷たい風が入ってきていて

さっきから
必要以上に
私の背筋を凍らせている。


通路幅は狭いけれど

意外に高い天井から
裸電球の光が
ゆらゆらと揺れながら
暗い通路を照らしていて。


「天井にも
御札が貼ってあるよおおおお」


…生まれ育った家で
慣れているとはいえ


「カノンくんのお母さん
よくひとりで
こんなトコロを歩ける…」

「しッ!」


セイが
私の口を手で塞いだ。


「誰かいる」


細い階段の突き当たり
左側に通路が続いている。


曲がり角の向こうから

裸電球より
少しばかり明るめの灯りが

右側の壁を照らし

その壁にできた長〜い影が
忙しなく動いていてッ!!!


「ひッ」

あまりの恐さに
気を失いそうになった。


「びびってんじゃないよ。
人間だから安心しろ」

ナミダ目の私の耳元に
セイがささやく。


「カノン母とカトーだよ」

「!?」