「あれは
カノンが
廊下で俺達の様子を
ずっと窺っていたからさ…」


いくら私達が
イチャついても

いっこうにカノンくんが
部屋に飛び込んでくるコトも

立ち去る気配もなくて。


「ああやって
アイツを小バカにして

アイツのプライドの高さを
刺激してやったら」


案の定。

「堪らず飛び出してきたって
ゆ〜ワケさ」


…だからって。

「セイって、いっつもそう」

私の気持ちなんか
おかまいなしで


「こうと思ったら
何の説明もなく
行動しちゃってて…」


「だってトーコは
俺に合わせて
演技なんか出来るタマじゃ
ないだろう?」

「私が悪いってゆ〜のッ!?」


「…そうじゃなくて」


セイが
興奮する私のカラダを
強く抱きしめた。


「…俺がトーコに
甘えてるだけだって

自覚はあるから」


「……」

セイの心臓の音が
背中に伝わってきて。


…セイはズルイ。


「世界中の全ての人間が
俺の敵に回っても

トーコだけは
俺の傍にいてくれるって」


いて欲しいって
願ってるくせに


「トーコの気持ちを
確かめずにはいられない
自分がいるんだ」


「……」

セイの冷たい指先が
私の指に絡んでくる。


静かな狭い階段。

あんなに恐かった
御札すら

リアルに
思えなくなるくらい


セイの低く響く声が

切なすぎて。


「…湯たんぽ
使っていいよッ」


私はセイの手を

自分のコートの中に
突っ込ませた。