「12時間以内には

線香の交換に
誰かが
降りてきてくれますから」


落ち着きましょうと
言わんばかりに

カトーさんが
胡坐をかいて床に座る。


「……」
「……」

狭い通路

カトーさんの横に
セイが
長い足を持て余すように
腰かけて。


セイに寄り添うように
私も床に腰を下ろした。


「…ちょっと
一服させて貰っても
いいかな?」


カトーさんが
ポケットから
タバコを取り出して。


「この家の女性は
みんなして嫌煙家でね」


愛煙家は肩身が狭いって
苦笑してる。


「…夕飯が終わってから
ずっとあのオバサンと
いっしょだったんだ?」


「ああ。
今日の遺言状の公開に
立ち会う為に

客人が
本州から
たくさんくるからね」


喫煙できた
開放感からなのか

カトーさんの言葉使いが
フランクになってきてる。


「他にも親戚が?」

「いや。
取引先の企業の代表の
代理人なんか、がね」


誰が何を
どう相続するかで

今後のつき合いも
変わってくるとかで。


みんなして
戦々恐々なのだという。


いちいち腹を探られるのも
面倒なので


「いっそのコト
遺言の席に
同席して貰おうって

お嬢さまの
たってのご希望でね」


…カノンママの話をする
カトーさんは
本当にやさしい目をしてる。