「…どうして、そんなコトを」

「ここの家のヒトが
そんなウワサをしてた。

それで溺死しかけたんだって」


セイは早口で

カトーさんの
煮え切らない答えに
たたみ掛ける。


「…その騒動があったのは
本当ですが

お嬢さまが出産されたのは

兄君がこの島を離れられて
2年も経ったあとですから」


だとしたら

「カノンくんが
ふたりの間の子どもなんて
あり得ないじゃないッ!!」


「…何、おまえが
喜んでるんだよ」

セイが私のアタマを
自分のヒザの上に
乱暴に引き寄せて。

私はセイのヒザの上に
顔を押しつけられた。


…オブザーバーは
黙っていろと
言うコトなのかッ。


私が、どれ程

その事実の真偽に
ココロを痛めていたか

セイはわかってないッ。


「でも

レイプ事件は
本当にあったんだよね」


「……」

「気を遣う必要はないよ。

真実を
知りたいだけだから」


セイの
低く落ち着いた声が

その本気度を
示していた。


「父は生前

この家のコトを
原稿用紙に書き連ねていて」


無口で静かな
この家の当主であった父。


いつも毅然としていて。
自己犠牲をいとわない。
自分にもヒトにも
厳しかった母。


そして

自分の感情を抑えない

エキセントリックな
かわいい妹。