「物語りは
妹が生まれたその朝から
始まっていて」


それはもう

愛情深いやさしい視点で
描かれていましたよ、って

セイが私の髪を
撫でていて。


「おだやかな私小説で
何の山場もなくて」


知らないヒトが読んだら
あくびをしそうな

かったるくなるような
エピソードばっかりで。


それが

突然、最後にひと言


【お兄ちゃんにレイプされた】


そう書き殴って
作品は終わっていて。


「俺の父親が
何かしらやらかして

勘当させられた、ってのは
聞いていたから」


たぶん

そういう事件が
原因なんだろうな、って

予想はついていたから


「真実を知る覚悟は
できてる」


セイの声が
最後だけ弱々しかった。


…セイは

どんな残酷な事実を
聞くコトになっても

大丈夫だって


何度も
自分に言い聞かせるように

繰り返してる。


でも

こうやって

私を自分のヒザに
顔を埋めさせているのは


情けないであろう
自分の表情を

私に見せたくは
なかったんだ。


「……」


私は

私の髪を撫でていた
セイの手の指先を

そっと握った。