「びっくりしたね」
まさか
あのカノンくんのお母さんが
みんなの前で泣き出すなんて。
「そりゃ
嬉しかっただろうよ。
全財産を自分と息子で
ふたり占めだ」
さっきからセイは
ず〜っと
この調子でぶ〜たれていて。
「遺産なんて
相続放棄するんだって
息巻いてたクセにッ」
私は思わず苦笑してしまう。
セイのおばあさまが
遺していた遺言状には
土地、不動産、株、証券
その他諸々の権利など
その殆どを
カノン母子に譲渡すると
明記されていて。
カノン母子に
厳しかったおばあさま。
だけど、それは
奔放で激しい性格の
自分の娘と
片親で育つカノンくんの
将来が
何よりも心配だったから。
亡くなってから
こんな形で
その愛情が伝わっても、って
ちょっと
切なくもあったけど。
「俺なんかさ〜。
こんな離れ小島まで
のこのこ乗り込んできて
手土産程度の相続でさ〜」
「相続税かからなくて
ラッキーだって
カトーさん達には
うそぶいてたじゃない」
「…ふんッ」
結局。
孫のセイには
遺産相続分として
この屋敷の敷地内にある
わずかな土地と
ちいさな東屋が
与えられたんだけど。
土地だなんて
掘ったら貴重な鉱石でも
出るのかと思ったら
ただのおおきな池、で。
「池と言うより沼だよな〜」
暗くて底が見えない池。
水面には
おおきな蓮の葉が
群生している。