「有名な絵画で
こういう絵、あったよね」
私がフォローしても
さっきから
ちらちらと蓮の葉の間から
覗き見える
魚達のウロコが
魚の目が苦手なセイの
神経を逆撫でしては
その池の真ん中に
ぽつんと建っている
東屋の中から
セイにじゃり石を
投げつけられている。
「こんな沼と
ボロい水上小屋なんて、俺
俺に対するばあさまの
愛情とセンスを疑う」
…確かにッ。
だけど
六角形のその建物は
360度ぐるりと
どの方向からも
池と緑が堪能できて
「風流人と
呼ばれるヒト達が
好みそうじゃない?」
「…俺の父親が
好きだった景色なんだってさ」
え?
「一日中、何もせず
ここでぼ〜っとするのが
一番のしあわせだったって
私小説の中に
この東屋のコトが出てきてた」
「……」
セイがちょっとだけ
やさしい目をして
遠くを見つめた。
風が吹く度に
ザワザワと深い森が
自己主張して
「うるさいくらい
静かだね」
「…トーコのくせに
随分、詩人じゃん」
東屋の畳の上
大の字に寝そべりながら
セイが笑う。
「…パパ達
このコトを知ってたから
セイをここに
よこしたのかもね」