ジーンズが汚れるのが
嫌なのか

さっきから
セイはずっと立ったままで。


私の顔の正面に
自分のキレイな顔を
覗き込むようにして
近づけては

私に
心理的圧力を掛けてくるッ。


「……」

私はタコ8粒を
口の中にかっ込んで

セイに
爪楊枝を2本
揃えて渡した。


「ブラックホールみたいな
口だな」

「ぶぼぼッ!」


言い返そうとして

危うくタコが
口から飛び出すトコだったッ。


んぐんぐんぐッ。

硬いタコを懸命に噛み砕いて。


こんなトコロ
誰にも見られたくないッ、って
根性入れて頑張ってたのに。


「ねえ、キミ達
ここの地元っ子?」


何もこんなタイミングで
話しかけてこなくても、って

口元を両手で押さえながら
枯れた声がする方を

ちらり、見る。


ベージュの
トレンチコートを着て
帽子を目深に被った
細くてちいさいオジサンが

ジャンパーを着た
でっかいおに〜さんを
引き連れるようにして

私達に笑顔を向けている。


「…何か?」

セイがクールな顔で
答えてるけどッ。

その口調はケンカ腰だ。


道なら
タコ焼き屋さんの方が
詳しいですよッ、って
言いたかったのに


大量のタコを
イッキに飲み込んで

「うッ」

私はノドを詰まらせる。


くくくく
苦しいいいいいいいッ。


「ば〜か!」


セイが私の顔を覗き込んで

ナミダして苦しんでいる
私を見て

苦笑してるううううッ。


まあ、こういうときのセイに
期待なんかしてないけどッ。


「キミ、大丈夫?」

なんて

ガタイのいい
若いおに〜さんが

私の背中を叩こうと

余計なコトを
するモノだから。


「トーコに触るな!」

セイの声が尖がった。