「彼の言う通りだ」
女性のカラダに
むやみやたらに触ろうと
するモンじゃないよ、って
ちいさなオジサンが
おおきな若者を
注意する。
「悪いね。
キミの彼女に触ったりして」
「……」
「そこの角で
今朝、ひき逃げ事件が
あったんだけど」
オジサンは
警察手帳を私達に開示した。
…本物の警察手帳って
初めて見たッ。
おお〜ッ。
学校で自慢できるぞッッ!
「…さあ。
俺達、今朝は
ここを通ってないんで」
「そうか」
もし、近所のヒトや
友達なんかに
目撃したってヒトがいたら
ウチの署に
連絡くれるかな、って
オジサンは
事故現場に立っていた
白い看板を指をさす。
警察が立てた
目撃者探しの看板。
「白い車だって書いてる…」
「トーコ、おまえって
体力、知力だけじゃなくって
視力も野生動物並みだな」
セイが目を凝らして
看板を睨みつけてる。
…セイの視力が
落ちたんじゃないのかッ。
そんな私達に
これ以上訊いても
時間の無駄だと思ったのか。
「邪魔したね」って
ちょっと帽子に手をやって
オジサンは
若者を引き連れて
また別のヒトに声を掛けていた。
「朝、ひき逃げ事故なんか
あったんッスか〜?」
セイがタコ焼き屋の
おにいさんに声を掛ける。
「ああ。
ウチが開店するちょい前に
あったみたい」
表通りが工事中だった
コトもあって
いつもよりも
ヒト通りもかなりあって
目撃者はたくさんいた
らしいんだけど。
オンナ子どもばっかりで
白い車としか
わからなかったらしい。
「裏とはいえ
見通しのいい道なのにな」
セイがタコ焼きを
ひとつ
他人事だと言わんばかりに
頬張った。