静かなリビングと和室を
見回して

「もう帰った後なのかなッ」


私はひと息をつく。


「帰ったって。

靴を置いたまま、でか?」


私の後を追うようにして

セイが荷物を
リビングに運び入れに
やってきて

眉をひそめた。


「預かってたのは

子どもじゃなくて
靴だったとかッ」


洗濯物が飛ばされて
ベランダに落ちてきてたとか。


「どっちにしても
いないなら、それでいい」

疲れたから
風呂入って
ひと眠りする、って

セイは
自分のカバンだけ持って

自分の部屋に入っていく。


「ほおおおおおお…」

帰宅した早々

せっかく
直ってきたセイの機嫌が
また悪くなるかと思って

気が気じゃなかったけれど。


「やっぱり我が家が一番だ〜」

私は
リビングのコタツの板に
すりすりと

束の間のしあわせを
味わった。


「…おい、トーコッ」


コタツで和む私の背後に

どんよりと澱む
不穏な空気ッ。


…この場合。

どうしたの、って
振り返るべきなのか

それとも

寝たふりを決め込むのが
得策なのかッ。


ドガッ!


「俺の部屋に
何かいるんだがッ」


セイの長い足が
コタツの天板を
おおきく揺らしてッ。


…私は選択権を失った。