このお箸を買うときも


私がこのお箸を選んだら

最初、セイは新幹線柄のを
選んでいたのに

「僕、やっぱりこっちにする」

ピンクのハートを手にしてて。


「セイは私のマネばっかッ!」


…あのときは
ショッピングセンターで

セイを大泣きさせたんだよね。


結局、色違いで
一件落着したんだけど。


…ママってば
こんなの
まだ取ってあったんだ…。


何か嬉しくなってしまう。


だけどッ。

そんな想い出のお箸を


「ああッ!!
お願いだから、噛まないでッ」

「おうッ!?」


少女のゾンザイなお箸の扱いの
私は思わず少女の口から

お箸を取り上げるッ。


「……」

木製のお箸に

見事なくらい
歯形がくっきり…。


「いいじゃない。
もう使わないんだから」

ママはそれでいいんだッ!?


「乱暴なおねえちゃん
でしゅね〜」

パパッ。

幼稚園児に赤ちゃんコトバは
気持ち悪いからッ。


「……」

何事もなかったように
野生の少女は

今度はスプーンで
おこさまランチを
黙々と食べ始めて。


…この夫婦より

この野性児の方が
よっぽど空気を読んでるぞッ。


だけど

「これ、嫌い」
「これ、不味う〜い」

好き嫌いのグレードは
セイクラスのツワモノで。

ポテトサラダに
ケチャップライス。

細かく解体して
寄り分けていた。


「何だかセイを
彷彿とさせる子だよね」


「誰を彷彿とさせるって?」

低いトーンのその声に

固まったのは
私だけではなかった。