私はパパのポケットから
パパのケータイを
抜き出して
「セイッ!」
私はセイにケータイを
投げ渡した。
「トーコッ!?」
「パパッ。
代わりに
私のケータイ使っててッ」
私は
パパに自分のケータイを
押しつけて
「セイッ、逃げるのよッ」
セイの腕を取り
ビルのエントランスを
駆け出した。
「セイッ、トーコッ!!」
パパの大声が
エントランス中に
響いていたけど。
今更、後戻りなんて
できないよ。
「…トーコ、おまえ。
バカッ」
そう言いながらも
セイは足を止めずに
私といっしょに
走ってくれている。
「後のコトは
セイが考えてッ」
「おまえなあ」
駅とは正反対の坂道を
体力自慢のふたりが
脚力をフルに活かして
運動不足のパパなんか
あっという間に
振り切ってしまう。
「ここまで来たら
大丈夫だよねッ」
ビルの谷間の
静かな路地裏。
セイが
パパのケータイを
私から受け取った。
「着信履歴で
調べればいいんじゃない?」
先走る私に
セイはうっとおしそうに
背中を向けた。