乱れ咲き♂015
くじいた足を庇いながら
ネットカフェの店員と
信号を渡る。
「湿布薬とか買って行こう」
ネットカフェの店員さんが
ちいさな薬屋さんを
指さした。
都心のオフィス街には
不釣り合いな
古いちいさなビル。
おおきなビルに挟まれて
居心地が悪そうだ。
私の返事も聞かずに
ネットカフェの店員さんは
薬屋に入っていった。
「おや、テル。
いいドリンク剤入ってるよ」
「あ、今日は違うんだ。
湿布薬、出してくれ。
足くじいたみたいでさ」
ネットカフェの店員さんを
「テル」と親しげに呼んでいた
薬剤師の名札をつけた
おじいちゃん。
テルさんの後ろにいた
私を覗き込んでくる。
「どれ。べっぴんさん。
足を見せてごらん」
私をイスに腰掛けるよう
指示をした。
…べっぴんさん、って
美人、ってコトだよねッ。
セイが
年配のヒトなんかに
よくそんな表現で
賛美されてたから。
…ちょっとイヤミだ。
「……」
私は黙って
くじいた足の靴下を脱ぐ。
「これくらい湿布で充分」
おじいちゃん薬剤師は
私のヒザを
ぴしゃん、と叩いて。
奥から救急箱を
取り出してきた。
すでに開封されている様子の
湿布薬の袋。
「客に使いさしなんか
売りつけないでよ〜」
テルさんが
おじいちゃん薬剤師さんに
ツッコミを入れる。
「こんなので
金を取ったりはしないよ」
おじいちゃん薬剤師が
シワくちゃな顔を
さらにシワくちゃにした。
「……」