「俺ッ、ホントに
知らないからなああああッ」
ちゃんとセイに
釈明してくれよおおお、って
駆けて行く
私の背中に向って
テルさんが叫んでる。
「わかってます〜!!」
私は振り返らずに
テルさんに手を振った。
おじいちゃん薬剤師の
上手なテーピングのおかげで
くじいた足も気にならず
坂道も
苦もなく走れる。
「タクシー!」
運よくタクシーを掴まえて。
「このホテル
どこにあるかわかりますか?」
「ああ、そりゃ、もちろん」
タクシードライバーさんが
ミラー越しに
ちらちらと
私をを見ている。
…なんか、感じ悪いッ。
「…お客さんは
あのホテルに
何しに行くのかな?」
「えッ」
「旅行者?」
「…違いますけど」
何が言いたいんだろうッ。
「そうだろうね〜。
あんなホテルに
泊まれるようなVIPには
とても見えないから」
あっはっは〜、って
ドライバーさんが笑うッ。
…どういう意味じゃッ。
「若いオンナノコが
ひとりでタクシーに乗って
あのホテルに向かうなんて
オジサンは
有名人が変装して
お忍びで遊んでるのかと
思ってさ」
「……」
「芸能人」じゃなく
「有名人」って表現が
気にかかるけどッ。
「あんなホテルに
何しに行くの?」
「え…ッ」
「まさかエッチなオジサンと
待ちあわせとか
してるんじゃないよね?」
「ないですッッッ!!!」
私をどんなオンナノコだと
思ってるんだッ。
「あのホテルは
厳しいからね」