乱れ咲き♂019
「おまわりさん」と言ったら
私にとって
これ以上ないくらい
信用できる人間で。
小学生の低学年のとき
10円を拾って
交番に届けたら
「かんしゃじょう」って
ひらがなで書かれた
手書きのカードをくれる、って
みんなで必死になって
落ちてるお金を
探し回っては
カードの数を競ったりして。
今思えば
とんでもなく
仕事の邪魔をしてたのかも
しれなかったけれど
どのおまわりさんも
いっつも
やさしくて。
「ありがとう」って
アタマを
撫でてくれるんだ。
学校の帰り道
道端ですれ違っても
必ず笑顔で
声を掛けてくれる。
ヘビ退治を
して貰ったコトだってあった。
3人のおまわりさんが
大騒ぎしながら
ヘビを駐車場から
警棒を使って
おびき出そうとして。
「腰が引けてるよね」
セイが冷やかに
見学していたのを思い出す。
「…警察のヒトが
そんな悪いコトをするなんて
思えないよッ」
今日、ひさびさに訪ねた
交番のおまわりさんだって
何だかんだ言いつつ
ニッタ刑事も
おやっさん刑事も
悪いヒトじゃないしッ。
「銃だって
盗まれたりしてるのかも
しれないしッ」
「警官の銃が紛失したら
今頃、ニュースで
やってるだろ?」
「盗まれたコトに
気づいてないのかも
知れないしッッ!!!!」
「……」
「……」
「トーコみたいな
おバカなヤツが
警察官の中にいるとでも?」
うぬぬぬぬううううう。
「犯人が賢いのかも
知れないじゃないッ」
背中から抱きしめてきていた
セイの腕を
私は乱暴に振り解いた。
「…白昼堂々
ニューナンブなんかを
見せるバカの
どこが賢いっていうんだ」
長い足を
テーブルの端に
靴のまま引っ掛けて
セイってば
口も悪いが
行儀も悪いッ。
「警察に疑いの目を
向けさせて
私達と警察が
手を結ばないように
仕向けているとかッ」
「そんなコトをして
犯人に
どんなメリットがあるんだ?」
むむむむむッ。
「このダケンを孤独にして
『彼』を目覚めさす、ってのが
犯人達の
最終目的なんだろ?」
…確かに
私達に大切にされてるより
警察の手で保護されてる方が
よりその状況に
近づけるのかもしれなかった。
…あれ?
「ケンちゃんは?」
さっきから
ちょこちょこと
姿が見えなくなるけれど。
「ダケンなら
さっきからこの下で
贅沢に遊んでるけどッ」
ダンッ!
足を掛けていたテーブルを
セイが乱暴に蹴りつけて
「おううッ!????」
ガンッ!
「お〜う…」
セイの立てた音に驚いて
アタマを打ちつけたらしい
野生の少女が
テーブルの下から
後頭部を片手で押えながら
這い出してきた。
「大丈夫ッ!?」
「おうッ」
見るからに
硬そうなアタマ。
…なんて失礼かッ。
「こんな中に入って
何して遊んで…うッ!?」
私は少女が這い出してきた
テーブルの下を覗き込んで
絶句するッ。
「あはははははは…」
確かに
セイの言う通り
それは”贅沢”極まりない
お遊びでッ。
「…よく笑ってられるよな。
自分のじゃないから、か?」
「うッ」
それを言われるとッ。
額から
汗がにじみ出てきたッ。
セイが
テーブルの下から
”ソレ”をひとつ
取り出して
「…何のつもりだ?」
取り出したモノを
野生の少女の目の前に
叩きつけるッ!
「おたまじゃくしッ」
少女は堂々と答えた…。
「……」
「……」
「……」
「一万円札で作った
オタマジャクシなら
さぞ豪華なカエルになって
返ってくるんだろうなッ」
って。
「カエル」だから「返る」
それって
もしかして
シャレ、でしょうかあああッ。
だけどッ。
とてもじゃないけど
そんなツッコミ
私にはできませんッッ。
一万円札の
片側が丸くクシャクシャに
反対側が細長く
尖がらせて
嫌味なぐらい
成金じゃくしッ。
私が持ち歩いていた
一万円札の3分の1は
成金じゃくしに
生まれ変わって
しまっていてッ。
「……」
セイが無事だった
一万円札を1枚拾い上げると
何やら
じいいいい、っと
ソレを見つめていてッ。
…恐いッ、恐いぞッ。
「おう?」
セイが
その一万円札を
テーブルの上に広げると
少女が
おおきな目を
さらにおおきくして
覗き込んでいる。
長いセイの指が
精密機械のように動くと
「おううッ!」
セイの手の中で
ちいさな蓮の花が生まれた。
「一万円札を使うなら
これくらいのモノは
創るんだな」
セイが子ども相手に
エラそうに
ソファーにふんぞり返るッ。
「おまえは
そこでちゃんと
おとなしく遊んでいろ」
…テーブルの上
蓮の花のまわりを
おたまじゃくしが泳いでる。
「おうッ、おッ、お〜う♪」
機嫌よく
一万円札をオモチャに
野生の少女が遊び出した。
「…こんなダケンなんぞに
いったい何を見出して」
才能、やら
生まれ変わり、やらと
騒ぐのか。
「俺には理解できないね」
へなちょこ
おたまじゃくしを
セイは
長い指で甚振ってッ。
「ちいさい子が
一生懸命創ったモノを
そんな風に扱わないッ」
私はセイの手を
ハエを追い払うように
後退させた。
「俺の金、なのにな〜」
うッ。
「この貸しは高くつくよ〜」
うううッ。
セイの目が恐いッ。
私のコートに
セイの手が掛かって
「血のついたモノ
早く洗わなくちゃ、な」
私のカットソーを
つんつん、と引っ張った。
「この服ッ。
飽きてきてたからッ。
リメイクしようかな、と
思ってたトコロだったしッ」
「じゃ、破っちゃおうかな」
って。おいッ!!!!!
そういう意味じゃ
ないんですけどおおおお。
「血の跡が残っても
別に構わないって
意味なんですけどおおお」
「おバカなトーコは
日本語の使い方が
おかしいんだよ」
セイの解釈が
間違っているんだと
思いますううううう!!!
逃げようとする私を
楽しそうに押さえつけて
セイはコートを
剥ぎ取ると
丸襟のネルブラウスを
肩から外してッ。
「自分で洗うから
構わないでくれるッ!?」
ソファーの上で
ふたり
主導権の
取り合いをするッ。
「ケンちゃんッ!
このおにいちゃんに
噛みついてやってッ」
「うほ?」
「このおねえちゃんの
ジーンズ脱がせたら
蓮の折り方
教えてやるぞッ」
「おお!!」
少女の目が
らんらんと光ってッ。
「そんなのアリなワケッ!?」
「おまえが先に
ダケンを
巻き込んだんだろうがッ」
「ケンちゃんッ
後生だからやめて〜〜〜!」
「うほほッ」
幼稚園児が
変態オヤジみたいな
悦び方をするのは
やめましょおおおおお。
セイが私の両手を掴んで
野生の少女が
私の胸の上に背中を向けて
馬乗りになった。
ちいさな手が
私のジーンズのボタンを
一生懸命外そうと
試みてるけどッ。
「ひょええええッ」
こんなとき
私を守ってくれるのは
やっぱり
パパしかいないのかッ。
投げ出されたコートの中で
パパのケータイから
映画音楽が流れてくる。
「誰かから
パパに電話だよッ」
「…放っておいたら
留守電に変わるだろ?」
セイは
訴えてる私のオデコを
ジットリ
からかうように、舐めた。
くぬうううううう。
「パパの仕事の
取引先のヒトだったら
パパ、左遷だねッ」
「…嫌なコトを
言うヤツだなッ」
セイは野生の少女に
命令して
パパのケータイを
取って来させるッ。
…何か、セイってば
すっかり、この子を
手なずけていませんかッ。
セイは私に
ヘッドロックを
掛けながら
「はい」
パパのケータイ電話に出た。
…「はい」の声からして
いい子ちゃん入ってますッ。
電話の向こうのヒトには
まさか
プロレス技を掛けながら
このオトコが
電話に出ているなんて
想像もつくまいッ。
「あッ、ええ。はい。
そうです。
長男のセイです。はい」
…あれ?
パパの仕事先のヒトじゃ
ないのかな。
「…今、傍にいますけど。
替わりましょうか?」
えッ!?
「私ッ!?」
「おう?」
セイはケータイを
少女の耳に押し当てた。
「ジイジ…ッ」
ケータイの向こうから
聴こえてくる声に
少女の顔が
みるみる紅潮する。
「…この子のおじいさん?」
「そう」
ひと晩預かって貰った
お礼の電話を
パパに掛けてきたのだと
セイは私に耳打ちした。
「…今はジュナさんが
引き取ってるんだって
おじいさん達は
知らないの?」
「伝えてないみたい、だな」
って。
ジュナさんてば
勝手にひとりで
動き回ってるんだ…!
とんでもないッ。
「今はねえ。
トーコの穿いてるの
脱がしてたッ。
おたまじゃくし
いっぱいいるからッ」
おしゃべりな
野性児からセイが
ケータイを取り返すッ。
「とにかく
この子はウチでしっかりと
お預かりしてますから。
はい。
両親にもそう伝えておきます。
はい、それでは」
失礼します、と
セイは
深々とアタマを下げながら
ケータイを切った。
「……」
顔を上げた
セイの背後から
立ち昇る
負のオーラッ。
「…あのオンナ
ナメたマネを
してくれるじゃないか」
パパとママが
恥をかかされるトコロ
だった、と
怒り狂うッ。
「…ゼイッ、ぐるじいッ」
ギブ、ギブ、と
セイの腕を叩いて
私は早々に白旗を上げた。
ゲホゲホ、ゴホッ。
「トーコッ、死んだかッ」
少女がマジな目をして
私の顔を覗き込むッ。
「……」
誰のせいでッ。
「セイ。
預かるなんて
安請け合いして…」
本当に大丈夫なの、って
セイは
私に最後まで言わせまいと
バン、バン、バンッ!
テーブルの上の
おたまじゃくしを
1匹、1匹、掌で潰しててッ。
自分は今
最高に機嫌が悪いのだ、と
暗に私を威嚇してるッ。
「……」
こういうセイには
近づかないに限るというのは
私は幼い頃から
充分以上に学習していたッ。
だけど。
「ぺら〜ん、ぺら〜ん♪
うっほっほ〜い♪」
セイの潰した
おたまじゃくしを
自分のポケットに
陽気に詰めてるこの少女…。
空気を読めない
その図々しさに
若干の羨ましさと
ある種の才能を感じるのは
私だけだろうか。
犯人の手が
もうそこにまで
伸びてきている現実すら
忘れそうになってしまう。
誰を信じていいか
わからない。
この逆境を
セイはどうやって
乗り越えようというのだろう。
今度ばかりは
あまりにも
私達の分が悪すぎだ。
百花繚乱☆乱れ咲き
乱れ咲き♂019
≪〜完〜≫
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