乱れ咲き♂003
「うぐッ」
セイのキスから
逃げようとして
ドンッ!
バスルームの扉に
背中が当る。
後ろにバランスを崩した私を
肩から
抱きかかえるようにして
セイが私を
しっかりと掴まえた。
上半身を
赤ちゃんのように
横抱きにされる格好で
…セイのキレイな顔が
近いッ。
私を覗き込んでいる
その顔は
俯いているにもかかわらず
歪みもなく
完璧で。
セイが自分で描いた
王様のヒゲすらも
その美の前に
すっかり
飲み込まれているようで。
逆光という
ハンディがなければ
きっと私は
不覚にも、その顔に
見とれてしまっていただろう。
「セイ、あのね…あの」
「……」
それに比べて
私はセイの瞳に
どんな風に
映っているんだろう。
なんて低い鼻、だとか。
そんなちっこい目で
見えてるんだろうか、とか。
「……」
そう考えると
こんな無様な顔を
堂々と晒して
生きている自分が
何だか
図々しく思えてきて
思わず自分の顔を
両手で隠していた。
「…何、やってるんだよ」
「だって…」
こんな粗末なモノを
延々と直視されると
いたたまれない。
なのに
「トーコの恥じらう顔
もっと見ていたいんだけど」
なんて。
セイはどこまでも
サディストで。
「トーコ、かわいい」
私の両手の上に
甘いキスの雨を
降らせ始めた。
「…やッ」