「セイ、遅かったのね」
たいして驚きもせず
ママがセイを迎え入れ。
「オンナッ
クロワッサン
ちゃんと買ってきたかッ!?」
少女が
セイの持っていた袋の中を
覗き見る。
…この子はッ。
セイのコト
本気でオンナだと
思っているのかッ。
確かに化粧したセイは
キラキラと
眩いぐらいに
輝いていて
初めて会ったというなら
理解もできるがッ。
「…駄犬なんぞに食わせる
クロワッサンは、ないッ」
この声。
この口調。
…どう考えても
昨夜の仮面男だろッ。
「オンナッ。
おまえは腐れたモノでも
パン屋のオヤジに
掴まされてきたのかッ!?」
…この子はやはり
どこかネジが外れている…。
「セイ。ちいさい子を
からかっちゃ可哀想よ」
ママがクスクスと
無責任に笑ってるけどッ。
…セイは絶対
マジだったと思うッ。
「ほら、駄犬ッ!!
おまえの分だッ」
セイが
クロワッサンをひとつ
廊下の向こうに遠投して。
「おうッ!?」
野生の少女が
たったか、たったか
嬉しそうに
懸命にクロワッサンを
追いかけていく。
…セイってば
どこまでも大人げないッ。
この子が
あんまり素直に反応するのが
気に入らないのか。
「ほらッ、次ッ!
行け、トーコッ!!」
飛べないハズの
クロワッサンが
またしても宙を舞った…。
「……」
「ノリが悪いヤツだなッ」
セイのイライラの矛先が
私の方に向けられている…。
「…セイ、あのねッ」
「……」