行き交うヒト。
すれ違う車。
どれもこれも
もしかしたら
犯人じゃないかって
身構えてしまう。
なのに
当の本人は
車やヒトを恐がる様子もなく
「おッ、お〜ううう♪
おうおうおうお〜〜〜♪」
恥ずかしいくらいに
おおきな声で
陽気に
まり〜んずの応援歌を
口ずさんでいるッ。
「おまえ。音痴、だな」
「おうッ」
セイのヒマ潰しの
甚振りにも動じない。
ある意味、凄い大物だッ。
「…この子
自分の母親の事故の現場
見たんだよね」
「事故と言っても
外にほとんど
出血をしていなかった
らしいからな」
妊娠中もよく
貧血で倒れてたらしいから
いつもの、だと
思っているのだろう、って
セイが答える。
「ヒメミヤ氏は
出張が多くって」
祖父母の家。
両親の友人宅。
「臨月が近づいてた頃なんか
外泊が日常茶飯事だった
みたいだったらしいから」
こ〜ゆ〜のに
慣れているんだろう、って。
「な〜、駄犬ッ」
大声で歌ってる
少女のアタマを
セイが面白半分に
ぱこん、と殴った。