「ジュナッ。
アフリカのお土産ッ。
ゾウはどうしたッ」
「ごめん。
今回はゾウさんと
仲良くできなかったんだ」
「……」
「…サングラスなんて
どうしたの?
似合ってるけどさ」
ジュナさんが
少女のサングラスを取ると
おおきな瞳から
ぽろり、と
ナミダがこぼれ落ちて。
「あのねッ。ママがねッ」
「うん、うん」
野生の少女が
初めて
私達の前でナミダを見せた。
…私達家族に
なついていたように見えて
子どもなりに
やっぱりどこか
遠慮してたんだよね…。
「…ママなら大丈夫。
今は、眠りながら
あのヒトとお話してるんだよ」
「おにいちゃん、とッ?」
「うん。だから、ママ
誰かに守られているみたいに
凄くしあわせそうな顔して
眠ってたでしょ」
…何の話を
しているんだろう。
妙な会話。
このときの私は
それくらいの認識しか
なかったのだけれど。
「おにいちゃん」
少女がそう呼ぶ
そのヒトこそが
天国にいる
孤高の天才画家で。
そして
この不思議な会話こそが
少女の中に
『彼』がいると言われる
所以なのだと
このときの私には
想像もつかなかった。