「あの子の母親は
『彼』が死んだとき
唯一、傍にいて
『彼』の臨終を
看取っていたらしいんだけど」
主治医とされていた
米国医師も帰国中で
その上
「彼女に全てを譲る」との
走り書きが
『彼』のスケッチブックから
みつかって。
『彼』に強引に書かせようと
迫っていたんじゃないかって
彼女に疑いが掛かった。
「取り調べにも
彼女は
知らない、の一点張りで」
他のオトコと
結婚までしておいて
酷い捨て方をした
昔のオトコの元に
何が目的で
その日
わざわざ逢いに来たのか。
「……」
交番への道を
セイとふたり
ニッタ刑事の話に
耳を傾けながら歩く。
「結局は何も真相が
わからないまま」
彼女が
未成年なコトもあって
「無罪放免されたみたい
なんだけど」
そんな話を
いったい犯人は
どこで聞きつけたのか、って
ニッタ刑事が
溜息をついたけど。
…アンタみたいな
おしゃべりな警察官が
いっぱいいるからじゃ
ないでしょうかッッ。
ココロの声が
ノドまで出かかったッ。
気がつくと
3人は交番の前まで
歩いてきていて。
私はグッと
コトバを飲み込んだ。
「あれ、おやっさん」
交番の中に先に入った
ニッタ刑事が
中にいた老刑事の姿を
見つけて驚いている。
…この刑事さん
確か、タコ焼き屋の前で
ニッタ刑事といっしょに
私達に声を掛けて来た
ちいさなオジサン…。
交番の中の
デスク前に座っていると
ちいさなカラダが
より一層
ミクロに見える…。