セイが悪いんじゃないって
わかってる。

わかってたけど。


「その”ことわざ”は

俺がテストに出るって
教えてやったヤツだろうがッ」


セイが
アザラシのぬいぐるみで
応戦してきてッ。


「使い方ッ。
間違えてないでしょおおお」

クッションでまた
殴り返した。


「当たり前だッ。
俺が教えたんだからッ」


「おかげさまで
テストには
出ませんでしたけどッ」


マヌケなケンカだってコトは

当の本人達が
一番良くわかっていた。


だけど
何かに当たってないと

やってられない。


「ママが悪いんだから
ケンカはやめなさいッ」


ママがふたりの間に
入ってきて。


「……」
「……」

もうそれ以上
争いを続けられなくなった。


「ママがッ。
ママがパパに電話してッ。

ジュナさんってヒトにッ

パパから電話してッ
説得して貰うようにッ

パパにッ
お願いしてみるからッ」


しゃくり上げるように
泣きながら

ママが
自分のケータイを
手にしてるけどッ。


「パパのケータイから
ジュナさんに電話すればッ!」

ジュナさんと
連絡がつくかもしれないッ。


「あれッ、セイッ!?」


私と同じコトを
考えていたセイは

警察から預かっていた
少女のカバンを持って

すでに
玄関を出ようとしていて。


「パパの会社に
いくんだよねッ!?」


待って、私も行く、って
セイの後姿を

マンションの廊下を
追い掛けた。