乱れ咲き♂020


ちいさなポケットが
一万円札で出来た
おたまじゃくしで
いっぱいになっても

少女は
まだ無理矢理
詰め込もうとしている。


「パンツの中に
挟み込めば
いいんじゃない?」

セイが無責任に
少女の制服のスカートを
捲り上げててッ。


「おおッ」

少女が
セイのカラカイを
真に受けて

自分のパンツのゴムを
ぴ〜ん、と引っ張った。


「ケンちゃん。

おたまじゃくしは
お持ち帰り
出来ないからねッ」


私は急いで
コンビニのビニール袋に
おたまじゃくしを
回収する。


「おたまじゃくし
持って帰るぞッ」

自分のモノだ、と
野生の少女が
所有権を主張して

譲らないッ。


「こんなの持って帰ったら
おウチのヒトが
びっくりするから、ね?」


「そんな説得の仕方
子どもにゃわかんないだろ?」

セイが
ものすごお〜〜〜〜く
バカにした目で
私を見ていてッ。


「セイのお金でしょうがッ」

「放置した責任は
トーコにあるだろ?」

って。


それは
あまりにも冷たすぎる
おコトバではッ。


「おたまじゃくしッ。
じょ〜ず、って

パパに見せるッ」


少女の眉間にシワが寄った。


「パパには
写真撮って
見せてあげようよ。ね?」


私はパパのケータイを
セイに渡して

「セイッ」

写メを撮るよう促した。


「…ケータイの
使い方もわからないで

そんな提案
持ち掛けてんじゃないよ」


セイはケータイを
かったるそうに
少女に渡しててッ。


いい加減に機嫌を
直せよなああああああッ。


「パパに電話するぞッ」

少女がケータイを
プッシュした。


「…パパの電話番号
知ってるの?」


「たんしゅくの1ッ」


…残念ですが
ウチのパパのケータイの
”短縮の1”には

登録されていないかと
思いますッ。


「昨夜、父さんが
ジュンイチ・ヒメミヤと
話したって言ってたから

履歴に
残ってるんじゃないの?」


セイが靴のまま
私の背中を
長い足で小突いてきたッ。


…親切なアドバイスを
意地悪な行動つきで

ありがとう
ございますッッ。


「ケンちゃんのパパに
電話掛けてあげるね」

「うっほ〜おッ!」

少女がその場で
両手を上げて小躍りする。


「え〜っと、昨夜の履歴…」


私は少女の期待を背負い
パパのケータイの履歴を
スクロールした。

のにッ。


「国際電話になるけど
電話代、大丈夫?」


セイってば
しら〜っとした目で
私を見ていてッ。


「セイのケータイ
貸してよッ」


「俺の番号で着信しても

怪しまれて
出ないんじゃない?」


…確かに。

警戒されて
警察とかに通報されたら
ややこしいコトに
なっちゃいそうなのは

私にもわかった。


「パパの電話で
ワン切りするッ」


パパのケータイからの着信が
残ってたら

絶対に掛け直して
くれるよねッ。


我ながらアタマいい、って
自画自賛ッ。


なのにッッッ!!!


「図々しいコトを
考えつかせたら

天才的だな」

なんてッ

それは褒めてるんじゃ
ないよねッ。


「…パパには後で
掛けよっか」

「おおおおおおうッッッ!?」

少女が露骨に
不愉快な顔を見せた。


「パパ、好きなんだ?」

「おうッ!」


こ〜ゆ〜トコロは
子どもらしくてカワイイな。


なのにッ。

「ガマガエルと
どっちが好きだ?」


セイはどこまでも
意地悪でッ。


「パパッ」


…当然ですッ。


「ガマカエルの顔と
パパの顔なら

どっちが好きだ?」


「…………パパ」


むむむッ。

一瞬、考えたなッ。


セイがお腹を抱えて
笑ってるけどッ。


「じゃ、このおにいちゃんと
ガマガエルの顔ならッ!?」

「ガマガエルッ」


「いででででええええええ」


即答した少女ではなく

どうしてセイは
私のホッペを引っ張るのかッ。


「おまえは
まだまだだけど

見込みはあるから
落ち込むなよッ」


オトコは
顔に特徴がなくても

タフなら
生きていけるからッ、って


誰の受け売り
なんでしょおおお。


「そう落ち込むなよッ」

って。


少女が
セイの肩を叩いてるッ。


「……」

先に言っておきますが

「私が言わせてるんじゃ
ないからねッ」

「ガマガエルと
比較させたのは
おまえだろうがッ」


ソファーの上

再び乱闘が始まったッ。


「ガマガエルを
最初に引き合いに出したのは
セイじゃないッ」

私はセイに馬乗りになるッ。


「それは
ジュンイチ・ヒメミヤの
話だろうがッ」


「うほほ?」

私達の争いを
少女が楽しそうに見ていたのは
気づいていたけどッ。


「おらおらおらッ。

もっと腰を使って
俺を悦ばせてみろよッ」


少女のセリフに
思わず
ふたりの動きも止まるッ。


「おらッ、おらッ、おらッ」

クイクイッ、っと

少女は自分の腰を
怪しい動きで
前後させていて…。


…ケンちゃんッ。


「…どこで
そんなの覚えたんだ?」


セイッ。

他所さまにも
いろいろ
ご事情がありますからッ

深く追及するのは
止めましょおおおおお。


「パパとママッ!

毎晩は腰砕けするから
受け入れるのは
大変なんだってッ」


…気をつけよう。

暗い夜道と
幼児の聞き耳ッ。


「…おまえ
意味わかって言ってるの?」


セイってばッ

そんなの
わかってないに
決まってるでしょおおお。


「…教えてやろうか?」

「おう?」

「セイッッッ!!!!」

私は思わず
セイの胸ぐらを掴んだッ。


「教育上よくありませんッ」


「性教育も立派な教育だ。

な〜、ダケン?」


って。
幼児に同意を求めるなッ。


「性教育なんて
10年後で充分よッ」

「だってさ。ダケン」

「おう?」


「トーコのお許しが出たから

10年経ったら
そのカラダにじ〜っくりッ
教え込んでやるからな」


「うほ?」


それって
どういう意味
でしょうかあああ。


「ただし
おまえが巨乳に育ったらの
話だけどなッ」


「トーコッ。
巨乳ってなんだ?」

ケンちゃん
私に訊かないでくれますかッ。


「トーコには
縁のないコトバだ」


なんて

セイってば
澄ました顔して
こっちを見ててッ。


くぬぬぬぬううう。


「早くも
10年後の浮気宣言ッ!?」

「3人で楽しめば
いいんじゃない?」


なんてッ。


悪びれもなく

少女とチュッ♪

なんか
してるんじゃないッッ!!!


「うおほほほッ♪」


…ああ、ホントに
アタマが痛いッ。


だけど。

おかげで

少女は
セイに気を取られていて

おたまじゃくしのコトも
パパのコトも
忘れているようで。


セイと少女が
チュウしてる間に

私はおたまじゃくしを
そっと回収して

ミッションを無事完了した。


パパのケータイで
時間を見ると

もう19時にもなっている。


「ジュナさん
いつ帰ってくるんだろう」


「ジュナはママの病院ッ。

安っぽい味のハンバーガー
買って帰ってくるぞッ」


…そうだったんだ。


「この子のママの病院って
ここから近いの?」


「車なら
20分ってトコじゃないの?」

「……」


往復40分のどこが
【すぐに帰ってきます】
なんだッ。


「…あのオンナのケータイに
電話、掛けてみれば?」


セイに言われなくても

今、そうしよう、って
思ってましたッ。


私はパパのケータイから
ジュナさんのケータイに
電話を掛けた。


ハズなのにッ。


「あろ〜お?」


ジュナさんのケータイに
出たのは

横にいる
野生の少女でッ。


「ジュナさんってば

ケータイ
忘れていったんだッ」


「…ダケンと連絡を取る為に

わざと
置いて行ったんじゃないか?」


「え?」


…そういえば

前に電話したときも
この子がジュナさんの
ケータイに出ていたけど…。


「あろ〜お、あろ〜?」

「…ケンちゃん。
もういいからッ」


どっちにしても
迷惑なッ。


「…これじゃ
ジュナさんが帰ってくるまで
身動きがとれないね」


「豪華ホテルで
お泊まりなんて

ねずみ〜らんど以来だな」

そう言ったセイの目が
妖しく光るッ。


「ハンバーガー
買って帰ってくるって
言ってたんなら

もうそろそろ
ジュナさんだって
帰ってくるからッ」


いかんッ。

そう言いながらも
胸がドキドキいってるッ。


そんな私の鼓動を
さらに高鳴らせようと
しているのか。


ソファーのひじ掛け部分を
マクラにして

セイは
リラックスした姿勢で

こっちに
長い腕を伸ばしてきた。


「……」

長い10本の指が
私の顔に触れる…。


「あろ〜う、パパッ!?」


「……」
「……」


「おうッ。

今、オトコとオンナと

ホテルに
しけこんでいるぞッ」


「ケンちゃんッ。
誰と話しているのかなッ」


私は
野生の少女から
ジュナさんのケータイを
奪った。


「げッ」


ケータイの液晶画面に
表示されてるその名前ッ。


「…”短縮番号1”って」


ヒメミヤ・ジュンイチ…。


『もしもし? どうしたの?』


ひえええええええ。

国際電話。
繋がっちゃったよおおおお。


私は急いで
ケータイ電話を切るッ。


「…トーコ、おまえ。

一方的に
電話を切ったりしたら

失礼だろ」


何をするんじゃ、って
言わんばかりに
セイは呆れてるけどッ。


「だって
ジュナさんの
ケータイだよッ!?」


「ガキが勝手に
自分で掛けたんだから

おまえが焦る必要なんか
ないだろ」


それはそうですけれどッ。


「パパーッ!!」

私が切ったケータイに向って
少女が何度も叫んでる。


「父恋し、って
切ない響きだな」

セイってば

遠回しに私を責めては
いませんかッッ。


「…ジュナさんが
帰ってきたら

電話掛けようね」


「……」

少女が私の顔を
不審げに見上げてるッ。


「おたまじゃくしッ」


…覚えていたんですかッ。


「おたまじゃくしは
カエルになって

このねえちゃんが
美味しく
戴いてしまいましたとさッ」


セイが
モグモグ、ごっくん、と
ご丁寧にジェスチャーまで
つけてッ。


「食べたのかッ!?」


少女は
信じられないという目で
私をみているけれどッ。


私はそんな
悪食ではありませんッッ。


「…美味かったのか」


1匹も残ってないコトを

そんな風に残念そうに
しないでくださいッ。


「トーコは
ひとりで欲張って…ッ」


ぷるぷるぷる、と
アタマを横に振ったけどッ。


「そうか。

そこまで
腹が減っていたのか…」


「……」

そんな同情の目で
見ないでくださいッ。


おたまじゃくしも
カエルも

私は
食べたりしていませんからッ。


「ふふん」


セイが
ざまあみろ、って
勝ち誇った顔しててッ。


私を見ながら

ジュナさんのケータイを
手に取って

電話を手にする。


まるで
待っていたかのように

セイの手の中で

ケータイが鳴り響いて。


「心配して
すぐに掛け直してくるかと
思ったけどな」


セイの口ぶりから

それが
少女の父親からの電話だと
私にもすぐにわかった。


「はい」

セイが
真面目にケータイに出る。


セイは
簡単な自己紹介の後

現在の少女の状況を
説明し始める。


だけど。

セイってば

我が家にジュナさんが
様子を見にきた、って
設定で話を膨らませていてッ。


「ジュナさんは今

ウチの母達と
コンビニへ買い物に
出ているので…」


ウソ八百並べてるッ。


「ウチの貧相な部屋を
ホテルだって

教え込んでいるんですよ〜」


…よくもまあ

次から次へと

調子よく
そんなデタラメが
口から出るモノだッ。


「替われッ」

少女が必死で
セイに
アピールしているけれど。


セイは何を言われるか
わからないと
警戒しているらしく

なかなか
替わろうとはしない。


「まさかッ。

ジュンイチは
他所のオンナのトコロに
いるのかッ!?」


…少女が
恐ろしい勘繰りを見せてッ。


「……」

セイがしぶしぶ
電話を少女に替わった…。



「ママがよく言う
ジョークだッ。

気にするなッ」

って

それは
自分の父親に対する
フォローのつもり
なんでしょうかッ。


恐るべきヒメミヤ家ッ。


父娘の会話の端々に
夫婦関係まで
垣間見えますッ。


「パーパ。あのねッ」

少女が嬉しそうに
話し始める。


水族館で見かけたときも

仲のよさそうな
父娘だったもんね。


ハンサムなパパだけど

ガマガエルより
大好きで。



あのときは

この子のママの姿は
なかったけれど…。



「育児放棄していた」


オジサン刑事のひと言が
アタマの中に蘇ってきた。



…変なの。

そんなコト
あるワケないのに。


どうして思い出したり
しちゃったんだろう。


多少個性的ではあるけれど

育児放棄なんかされてる子が

こんなにのびのび
育つワケがなく。


だけど。

オフホワイトで
統一された

この部屋の無機質さは


私を
どこか不安にして。


「…本当にこの部屋
出たりしないんだろうな」


なんて。

見当違いの心配をしてしまう

私だった。





百花繚乱☆乱れ咲き

乱れ咲き♂020

≪〜完〜≫



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