【ダケンは
ワゴンに乗せたままにして
折り紙を渡して
機嫌よく折らせてろ】
…セイからの指令。
私より先に
このロビーに
降りてきていたハズ
なんだけど…。
【キョロキョロするな】
…どこから
私達を監視しているのか。
セイからのお小言が
ソッコー届いたッ。
「おほッ?」
私から
新しい折り紙を受けとって
何も言わなくても
少女がアグラをかきながら
蓮の花を折り始める。
…テーブルも使わずに
器用なモノで。
「OH♪」
お酒を楽しんでいた
外国人宿泊客達の
注目を一身に集めていた。
何も頼んでいないのに
ホテルマンが
フルーツの盛り合わせを
私達のテーブルに
セッティングしていって。
【俺のおごりだ。
ありがたく食え】
なんて
エラそうなメールなんだッ。
手持ち無沙汰には
ならずに済んだけど。
「…おいしい」
思わず緊張感も
どこかへ行ってしまう
おいしさでッ。
【今、あのオトコの弁護士が
席を立って
トイレに行くから
おまえはそのまま
美味そうに食ってるんだぞ】
「……」
セイからの指令に
ブドウが
フォークを避けるようにして
ころころ、と
テーブルの上を
転がっていく…。
【バカッ!
動揺を見せるなッ!】
平常心でいろ、なんてッ。
【やっぱり
私には荷が重すぎッッ】
【一度舞台に上がった役者は
最後まで演じきれッ】
【誰が役者だッ】
【主役だぞッ】
【それが何なのよッッ】
メールを打つ手が
止まらないッ。