「…その心遣いには
感謝するけど」
この子は渡すワケには
いかない、って
ジュナさんは
どこまでも頑な、で。
「だったら
もっと慎重に動いたら?」
セイが私の腕を取って
自分の隣りに座らせた。
「トーコをこの部屋に
連れ込んだコト自体
あまりにも
不用意だったよな」
「平気よ。
ここのホテルマンは
皆、口が堅いし…」
「別の階にダミーとして
もうひとつ部屋を
リザーブしてあったから?」
「…そうよ」
ジュナさんは
開き直ったように
吐き捨てる。
「ホテルマンも
トーコちゃんは
そっちの部屋に連れ帰ったって
思っているわ」
「でも
そっちの部屋にトーコを
連れていかなかったのは?」
「……」
「一般の部屋の廊下には
警察がウロウロしていて
トーコがうっかり
犯人にやられたコトとか
しゃべってしまうんじゃ
ないか、って
警戒してのコト
だったんだろうけれど」
トーコが
気を失ったりしなければ
「この部屋が
どれだけ安全か、を説得して
帰って貰う
つもりだったんだ?」
セイの憶測が
ジュナさんを
容赦なく追い詰める。
ジュナさんは
観念したように
苦笑いした。
「…この階の存在は
ホテル側の
トップシークレットだし。
VIP専用の
エレベーターにしか
表示もされていないの」
万が一
部外者がこの部屋の存在を
確かめようとしても
「そんな部屋など存在しません」
と一笑にふされるだろう、と
ジュナさんは言い切った。