「それにさ」

さっき内ポケットから
手袋を出すときに

「アンタは迷わず

右手用の手袋だけを
引き出したけど」


それは

返り血がついちゃって
左手の手袋を処分した後
だったからで。


「右手だけしか
残ってなかったから

でしょ?」


「……」


「さっきから
俺ばっかしゃべってるけど」


ここまできて
黙秘、は
ないでしょう、って


セイが
おやっさんの顔を
覗き込んでいる。


「セイくん…ッ!

…もういいよ。
後は、我々に任せて」


堪りかねて
ニッタさんが
ふたりの間に
割り入ってきて。


「黙秘は
立派な権利だから、とか

まさか
アンタは言わないよね?」


セイがおおきな声で
おやっさんを恫喝する。


「……」


「だって、そうだろ?

アンタが
ヒメミヤさんの奥さんに
恨みを持つとしたら

理由はそれしか
考えれれない」


「……」


「彼女が
アンタの取り調べに対して

最後まで

黙して
何も語らなかったから」


え?


「容疑者が最後まで
黙秘を通していたくらいで

いちいち恨んだりしてたら
私達の仕事は
成り立たないわ!」


「裁判で
勝たなくてはならない
検察官が苛立つなら
わからなくもないけれど、ね」


婦人警官とニッタ刑事が
揃ってセイに反論した。