「おはようございます」


いつもより
家を出るのが
50分早いだけで

出会うヒトの
顔ぶれも新鮮だ。


「…せっかくだから
ひと駅歩いて行こうかな」


この寒さだと

準備体操もせずに
いきなり走ったりすると
筋肉を痛めそうだ。


いつもの駅を通り越して
電車の線路沿いを

足早に歩いていく。


…何かさっきから

誰かの痛いくらいの視線を
感じるんだけど。


「……」


何度、振り返ってみても
怪しいヒトがいないのが

また怪しい…。


「やっぱり
電車に乗ればよかったかな」


駅に向かうヒト達と
すれ違っているうちは

まだいいけど。


人通りがなくなったら
ヤバいよね。


こんなトコロで
また何かよからぬコトに
巻き込まれたら

それこそ
またセイに何を言われるか
わかったもんじゃないッ。


私は踵を翻し

元来た道を
引き戻ろうとした。


「トーコさん、ですよね?」


目の前に立ちはだかる
オンナのヒト。


「…そうです、けど?」


朝から
古典柄のハイカラな着物
なんか着て。

おおきな花の髪飾りが
大正ロマンしてて

かなり個性的だ。


「……」

「……」

細い目と白い肌が
どこか薄幸そうで…。


「何でしょうか?」

「……」


…やだな、このヒト。


自分から
話し掛けてきておいて

どうして
何もしゃべらないのか。


「……」


何だか
気味が悪くなってきた。