「ハンコもツボも

私、買うお金なんか
ありませんからッ!!!」


私はそう叫びながら

元来た道を
全速力で引き戻るッ。


「あッ!、こらッ!!」


誰か
その子をつかまえてッ、って

大正ロマンの
甲高い声が響いた。


どうして
こうなるのかッ。


叫び声に反応した
結婚式の列席者達が

次から次へと現れて

私の行く手を阻もうと
通せんぼするッ。


私は自慢の運動神経で

さながら
アメフトの選手のように

そのタックルを
絶妙にかわしながら


出口の門に向う!


だいたい

何で私が
こんなトコロに
連れ込まれなくちゃ
ならないのかッ!


私に逢いたい、という
御仁なんて

本当にいるのかさえも
怪しいぞッ!!!!


「お待ちなさいッ!!」


冗談じゃないッ!!


絶対に逃げ切れる
自信はあった。


なのにッ。


私の目の前に
立ちはだかる振り袖姿の

見覚えのある
美しいその女性に

思わず私は
足を止めてしまった。


「トーコ。

おまえ、こんなトコロで
何やってるんだ?」


学校はどうした、って

艶やかな振り袖姿には
似つかわしくない

低い声。


「セイッ!?」