振り向くと
そこには品のよさそうな
細っこいおじいちゃんが
ひとり。
結婚式の参列者なのか
黒の紋付きに
縦縞の袴を身につけている。
頭頂部は
見事に光り輝いては
いたけれど
真っ白なお髭は
たっぷりと。
「…指輪、ですか?」
私はベンチに敷かれたいた
赤い布を捲って
覗き込んで見た。
「なかなか
かわいいお尻をしとるのお」
「!!!!!!?」
コートごと
私のスカートを
捲り上げられてッ
私は思わず
ご老人のアタマを
張り飛ばしてしまっていたッ。
「…腕っぷしも
なかなかなモノじゃ」
オナゴはこれくらい
迫力がないと
いい子は
育てられんからな、って
何の話をしとるんじゃいッ。
にこにこと
愛想よく
私に笑い掛けていて。
…へんなおじいちゃん。
私はその場を
立ち去ろうとした。
「ちょっと待ったッ」
「ひえッ!?」
持っていた杖を
私のコートの
背中のベルトに引っ掛けて
おじいちゃんが
私を
自分の方へ引き寄せるッ。
「何するんですかッッ!!」
「腰も満足に曲がらない
年寄りを見捨てて
どこに行くと言うんじゃ!」
…口が減らない、の
間違いだと
訂正を要求しますッ。
「ほら。
不憫な年寄りの代わりに
指輪を探さんか!」
くいくい、と
杖でコートを引っ張ってッ。
…それは
お願いではなく
命令、なんですねッ。