「おじいちゃんッ!

ヒトを疑う前に

自分の持ち物を
よく探したら
どうなんですかッ!」


思わず
振り返って
怒鳴りつけると


「それもそうじゃな」


もぞもぞ、と
私の前で

おじいちゃんが
紋付き袴を脱ぎ始めたッ!!


「おじッ!
おじいちゃんッ!!」


私が止める間もなく

一瞬のうちに
白いフンドシ姿に
なっていてッ。


「風邪ひきますからッ!!」

私は慌てて
着物を着せつけるッ。


「なんのこれしきッ。

シベリアの捕虜収容所に
比べたらッ!」


年寄りの冷や水、って

確かテストに出た覚えが
あるけれどッ

たぶん
こういう状況を
言うんだろう、って

直感したッ。


「なッ!?

ワシのカラダには
指輪など
どこにもなかったじゃろッ」


はいはいはいッ。

「次はオマエさんの番じゃ」

はいはい…

「はいッ!?」


冗談じゃないッッ!!!!


私のコートに掛かった
おじいちゃんの手を

私は思いっきり振り払うッ。


「ワシだけ脱がしておいて
それはなかろう」


「そっちが
勝手に脱いだだけじゃ
ないですかッッ!!!!!」


「……」
「……」


「…そんな恐い顔をして

イタイケな年寄りを
苛めてくれるな」


ゴホゴホ、ゴホッ。

「ああ、持病のシャクが…」


…今更ッ。

年寄りぶっても
遅いですからッ。


「冥土の土産に

ひと目見せてくれるだけでも
いいんじゃが…」