「アナタ達ッ!
もうみなさん
お待ちかねだから
さっさと歩いてくださる?」
大正ロマンが
以前、テレビで見た
鹿鳴館みたいな
古い洋館の入り口の前で
キャンキャン、と
吠えているッ。
「ほら、離れて、離れてッ」
追いついてきた私達の間に
割り入ってきて。
「あくまでも
アナタは嫁候補のひとり、と
言うコトで!」
大正ロマンが
私に強く念を押した。
…嫁候補、って。
私はどう振る舞えば
いいんだかッ。
「僕の恥ずかしがり屋な
恋人ってコトで」
先生は
何を聴かれても
ニコニコ
振舞っていて、って
言っていたけれど。
ニコニコ、って
こんなカンジかなッ。
ニッ。
私は密かに
笑顔のリハーサルをする。
「…ずいぶん
嬉しそうな顔してるじゃん」
!!!!!!
「セイッ!!」
「セイくんッ!?」
思わず
ねずみ〜らんどの先生と
大声で
半分ハモってしまったッ。
「どこに行ってたのかな〜。
もう戻って
来ないんじゃないか、って
本気で心配したよッ」
「そお?
ウチのトーコを
ちゃっかり掴まえて
パーティーに臨む気
満々だったじゃない?」
セイってば
真っ赤なラインで飾られた
艶やかな流し目が
と〜っても
意地悪になっていてッ。
「ああッ、ダメだッ」
ねずみ〜らんどの先生が
そんなセイを見て
悶絶するッ。
「こんな美しいミューズを
目の前にして
指一本触れては
いけないなんてッ」
神様は
なんて残酷な仕打ちを
なさるんだろうッ、って。
「……」
「……」
セイは
どこ吹く風とばかりに
先生の嘆きを
右から左へと
受け流していてッ。
…何だかとっても
気の毒になってきた。
「…指一本くらいなら」
私が不用意に
漏らしたコトバに
セイが
キッツイ目で睨んでくるッ。
「触らせてやれってッ!?」
「…だって」
何だか
可哀そうじゃないッ。