歩く速度を緩めると
セイの手が
スルリ、と
私の手から逃げて。
「何やってんだよ」って
言わんばかりに
セイが含み笑いをして
こっちを見ていて。
手を伸ばすと
和金魚のような
赤と黒と金の
艶やかな大振り袖が
「くすくすくす」
水色のカーペットの上を
私を残して
軽やかに泳いでいった。
…セイという存在は
どこか
私に現実を忘れさせる。
私は
金魚に導かれるようにして
奥の部屋へと
進んでいった。
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