スプリング♂006


セイが自分の意志で

どこかに
姿を隠しているのなら
いいけれど。


ひとりにされた不安より

セイがこのまま
消えてしまうのでは…。


そんな思いに
かられてしまうのは


この見慣れぬ
多角形の部屋のせいなのか。


四方八方を
窓ガラスに囲まれた

金魚鉢のような部屋。


こぎれいな
かわいい金魚は

ひらひらと
たくさん泳いではいるけれど


赤いべべ着た
ゴージャスな和金魚は

どこへ
逃げてしまったと
いうのだろう。


私は
ダイヤ柄の細い桟の窓に
近づいて


外の様子を
そっと覗いてみる。


常緑樹が生い茂る
真冬とは思えない景色が
続いているけれど。

窓の下は
断崖絶壁になっていて。


いくらセイが
運動神経がいいとはいえ

とてもじゃないけど

振り袖を着て
飛び降りられるような
高さではなかった。


ううん。


そもそも

セイみたいに
独特のオーラを放つ人間が
部屋に入って

誰の目にも
止まらないコト自体
不自然で。


神隠しにあったみたいに
消えてしまったとでも
いうのだろうか。


何だかどんどん
不安になってくるッ。