なのにッ。
ヒトの不安をよそに
目の前を
何度も横切る
怪しい人影ッ。
「やめてくださいッ」
つんつんつん。
「よいではないか〜♪」
かわいいお尻を
突きながら
まっ黒なジイサマ金魚が
ピンクの金魚の
お尻を追いかけているッ。
”無法”の杖を
縦横無尽に振り回し
セクハラの限りを尽くしては
「いやあッ!」
自分の孫の見合い相手に
悲鳴を上げさせていて。
「おじいちゃんッ」
私は堪りかねて
ジイサマの杖を取り上げたッ。
「何をするッ!」
元気なジイサマが
杖を高く掲げている
私に向って指をさすッ。
「いくら怒っても
セクハラをやめると
約束するまで
この杖は
絶対に返しませんからッ」
私は
ジイサマと睨みあった。
「う〜…」
いくら唸っても
こればかりは
見逃すコトはできませんッ。
「まあまあ!
これは何の騒ぎかしらッ!」
大正ロマンが
ヒトをかき分け
飛び出して来て。
「大先生に
何てマネをッ!」
「えッ」
大正ロマンが
私から乱暴に杖を奪い返すと
「お年寄りの杖を奪って
振り上げて
脅すなんてッ」
何て娘なの、って
捲し立ててるッ。