スプリング♂008


働き者の車達が
ひっきりなしに往来する
ちいさなオフィス街。


背の低いビル群を
みくびるように

冬の空もどんよりと
重かった。


細い歩道を
セイとふたり
手を繋いで歩いてる。


近くで見ると
赤と黒のその振り袖は
金の刺繍がされていて

素人の私から見ても
高そうな着物に見えた。


そんなゴージャスな
着物の裾を

乱暴に跳ね上げながら

セイが車道側を
苛立ち気味に歩いていて。


後ろから
走ってくる車達も

セイの横を通るときに
お決まりのように
減速しては

セイの顔を
覗き込んでゆく。


「彼女達、どこまで行くの?」


駅は歩くには遠いから
乗っていけば?、って

何度か声も掛けられた。


いつもなら
声など掛けさせないくらい

近寄りがたいオーラを
かもし出しているセイが

隙だらけで。


表面の苛立った様子とは
反対に

私の手を
握っている手が

弱々しい。


「けッ!

何だよ!、無視かよッ!!」


車の中から
タバコを投げつけられても


セイは
何のリアクションもなく。


「……」


こんなセイは
初めてだった。


キスくらい、って
言ったらおかしいけれど

私はそんなモノと
比べモノにならないくらい

とんでもない目にだって
遭ってきた。


「こんなの何でもないから」