スプリング♂009


先生は
私を自分のマンションに
私を連れ込むと


「トーコちゃんは
緑茶は飲める?」

美味しい玉露が
あるんだけど、って

ゆったりと
お茶の支度を始め出して。


「……」

先生の
おおきな手で扱われる

お猪口のような
ちいさな茶器には

2センチもお茶が
入ってない。


「舌で転がすようにして
甘みを味わってみて」


先生が”舌”ってゆ〜と
何だかすんごく
響きがエッチだ。


「……」

私は
初めての玉露体験に

おどおどしながら

茶器を口元に運んでみた。


「…いい香り…!」


わずかな量のお茶から
ふくよかな香りが
立ち込めていて。

口に含むと

ぬるめのお茶が

まろまろ、と
舌触りのやさしいコト!


いつまでも
口の中に含んでいたいような
まろやかさで。


…お金持ちの飲むお茶は
やっぱり違うッ。


「どう?」

「…甘いですッ」

「でしょ?」


先生が
私の素直なリアクションに

満足そうにしている。


…玄関のドアだって
カギが開けっ放しで。


荷物だって

すぐに持って帰れるように
玄関に置いてあった。


私がその気なら

すぐにでも
このマンションから
飛び出せる状況だ。


なのに

私が
ここでこんな風に
先生に勧められるまま

お茶なんて
嗜んでいるのは


私が帰った後に

セイが
私と入れ違いに
ここに来て

もし先生と
何かあったら、って

想像しただけで
恐ろしかったから、で。


けっして

先生に脅されたワケでも

強要されたワケでも
なかった。