テツオさんが
私にそっと耳打ちして
私の腕を引っ張ると
「アイツうううううッ」
先生が至福の笑顔で
こっちに振り向いたッ。
「案の定ッ!
俺のツケで
高級イタリアスーツに
シャツに靴に
毛皮のコートまで
買い揃えて店を出たって…!」
…主語が
抜けていますけどッ。
それは
セイのコトですよね、って
確かめるのが
恐いですッッッ!!!!
しかも先生ッ。
アナタはどうして
この状況に
そんな笑顔で
いられるのですかッ。
「店のスタッフから
2千万円の請求書
回しますから、って
言われたよッ」
…ああッ。
今、この場で
気を失ってしまいたいッ。
先生はきっと
あまりの衝撃に
現実逃避しているんだッッ。
「時計は
買わなかったんだ?」
ひきつり笑顔の
テツオさんの
縁起でもないジョークが
けたたましい
電話の音でかき消されて。
「はい?」
電話出た先生が
私でも知っている
高級時計のブランドの
名前を反復する…。
「…まさか」
「ね?」
私とテツオさんは
思わず手を取り合ってッ。
「七百万の時計だってッ!?」
「……」