スプリング♂012
「あのッ…!」
玄関に向かおうとしていた
先生のシャツの背中を
必死に掴んで
私は
勢いづいた先生の
足を止めるッ。
先生が振り返って
私の顔を見てるけどッ。
「…何?」
「いえ、あのッ」
ここは冷静に、なんて
私が言う立場にないのは
わかってますッ。
だけど。
「トーコちゃんも
連れて行ってあげれば?」
なんてッ。
テツオさんってば
余計なコトをッ。
「何だか
よくわからないけど
トーコちゃんが
他のオトコとツーショットで
高級時計店にお出ましなんて
セイくんが
どんな顔するか
すんごく楽しみッ♪」
「……」
「……」
テツオさんってば
何を期待しているんだかッ。
私と先生の
冷たい視線を受けて
テツオさんが
ぺろん、と舌を出してッ
可愛い子ぶっても
ダメですからッ!!!!!
高級時計店の中
大勢のヒトの目に
さらされながら
オトコ同志の
妖しい痴話喧嘩なんてッ。
そんな大恥を
先生にも
もちろんセイにも
かかせるワケには
いきませんッ。
ここは
先生にはぜひ
思いとどまって戴いてッ。
私は
先生のシャツを
握っていた手に
チカラを入れるッ。
「セイがしでかしたコトは
お詫びしますッ。
オトナびて見えても
まだまだ子どもでッ」
ここは
ぜひとも穏便にッ!!!!
すがるような目で
先生を見たッ。
「…だったら
トーコちゃんが
”オトナの責任の取り方”を
してくれるとでも?」
「えッ」