私はセイと違って
知らない場所に
お金も持たないまま
放置されちゃったら
この寒さに
野垂れ死にしちゃうかも
しれないッッ!!!
慌てていたとはいえ
せめて
お財布の入っていた
コートくらいは
持って出るんだったッ!!
「……」
エレベーターの中
私は自分の考えのなさに
後悔を繰り返し。
気まずい空気のまま
エレベーターは
地下の駐車場に到着して。
「…いいよ。
連れて行ってあげる」
えッ!
先生は
そう言い捨てると
私に背中を向けたまま
ブルーグレイの
オープンカーに向って
一直線に歩いてゆく。
「どうするの?
行くの?
行かないの?」
あまりの意外な展開に
その場に
立ちすくんでいた私に
車の中から
先生が指を鳴らして
私を急かした。
「…途中で捨てたり
しませんよね?」
「トーコちゃん
みたいなのが
トボトボと歩いていたら
きっと誰かが憐れんで
すぐに拾ってくれるよ」
「……」
「冗談だよ」
先生の笑えないジョークに
不安を覚えながらも
このまま
セイの元に
先生を
ひとりで行かせるワケには
行かなかったから
「……」
私は
助手席を乗り越えて
せまっ苦しい後部座席に
荷物のように乗り込んだ。
「…今度はえらく
用心深いんだね」