スプリング♂013


セイがこんな風に
私を無視するなんて。

オシャレな
ファッションビル街を
通り抜ける風も

まるで
私に「思い知ったか」と
言わんばかりに

冷たくて。


「お客さま」

時計店の店員さんが

ドアを開けたまま

階段上で
私のコトを待っていた。


…入っても、いいのかな。


私は

セイと先生が
顔を合わせたら
どうなるかわからない、って

そう思い込んでいたから。


先生の顔を見ても
ヒステリーひとつ起こさずに

店の中に引き入れた
セイの行動には

驚きを隠せない。


セイがこんなにも
自制が利く人間だとは
想像もつかなかったから

私は仕方なく

先生の車に
乗せられていったのに。


こんなコトなら

車を事故らせても
セイの傍に
戻ろうとするんだった。


…なんて

今更、後悔しても


もう遅い。


「何をしとるんじゃい」

店の中は
あたたかいぞ、と


私のお尻を突っつく
この感触…。


「先生のおじいちゃんッ!!」


紋付き袴の衣装から

セイと同じく
毛皮にスーツにお帽子にッ。


「何じゃ、その顔はッ」

ジジイにも衣装だ、とか

くだらん冗談は
なしじゃぞ、と


手に持った
真新しいステッキを
くるくると回してるッ。


しかもッ。

その怪しげな
サングラスは何でしょうッ。