セイが
ここに来て初めて
私に
声を掛けてきてくれた!
「セイも
ちゃんと家に帰ってきて
くれるんだよね!?」
私のテンションが
イッキに上がる。
だけど。
「……」
セイは私の問い掛けに
振り返りもせず…。
「…セイ…?」
スタッフによって
開け放たれた
ドアに向かって
おおきなストライドで
歩みを進めるセイの
硬く真一文字に結んだ
口元が
カラスドアに
一瞬、映った。
「やだ…ッ!」
ガラスのドアを出て
階段を降りるセイを
追い掛けようとした
私の気配を察してか
「この寒空に
オープンカーとは
戴けないね」
セイの横に執事のように
寄り添っていた先生に
セイがクレームをつける。
「毛皮を買った、って
聴いてたからね」
先生がスタッフが
駐車場から正面に回してきた
車のドアを開けると
「どうぞ。
カリフォルニア。
早く乗ってみたい、って
昨夜、言ってただろ?」
迷いもなく
セイに助手席を
勧めていた。
「……」
セイは黙って
ブルーグレイの車の
ボディーを
長い指で
何度もなぞっているけれど。