スプリング♂014


「お客さん、おつり!」

タクシーの運転手さんに
呼び止められて

「…あ」

私はタクシーの中を
覗き込むようにして

おつりを片手で受け取った。


「大丈夫?
落とさないでね」

心配顔の運転手さんに

「…はい。
ありがとうございました」


むける笑顔にも

チカラが入らない。


たまたま
マンションの前で
居合わせた

宅配便のオジサンの
後ろについて

マンションの中に
入っていく。


管理人室の
管理人さんと目が合って。

軽く会釈して
管理人室も
そのまま通り過ぎた。


本当は

エントランス前の
インターフォンで

部屋にいるテツオさんに
連絡して

マンションの入り口の
扉のロックを

解除して貰わなくちゃ
いけないのに。


何だか
そんな手続きすらも
面倒臭い。


コートも羽織らず
学校の制服を着ていたから

みんな

私のコトを

郵便物でも確認しに
外に出ていた
このマンションの子

だとでも
思ったんだろう。


こんな高級な
セキュリティーだらけの
マンションのくせに

フリーパスで
入れてしまった。


1台しかないエレベーターに
先に宅配便のオジサンが
乗り込むと

私が乗り込むのを待たずに

さっさと
ドアを閉めようとして。

「あ!」

私は思わす【OPEN】の
ボタンを押していた。