ああ〜。

こんなときにツイてないッ。


掌に握っていた
さっき貰ったおつりを
広げ、見る。


「公衆電話を掛ける
お金はあっても

テツオさんのケータイ番号
覚えてないし…」


今更、管理人さんに
事情を話しても
信じてくれるワケもなく。


「反対に

無断で入ったコトを

とがめられるに
決まってるよね…」


…どうしよう。

私は
先生の部屋の玄関に

自分の背中を
支えて貰うように

もたれかかった。


「…私が覚えている
ケータイ番号は

パパとママと…」


セイ…。


はああああ、と
その名前を口にする前に

深いため息が
漏れてきて。


「セイのケータイ」


荷物といっしょに

この玄関のドアを
1枚隔てた向こう側。


距離にしたら
2メートルもないハズで。


「…近いのに

すんごく遠いよッ」


ずるずるずる…。


ドアに
もたれかかったまま

私は
廊下に座り込む。


「…セイと話す
絶好のチャンスだったのに」