…このヒト達
大正ロマンと
何か事情でもありそうだ。
だけど。
私は、と言うと
この予想外の展開に
エレベーターホールに
飛び出すタイミングを
完全に逸していて。
「……」
どうしよう。
まさに
門前のトラに
ナントカのオオカミ状態ッ。
天敵に助けを求めに
飛び出すなんて
一か八かの
カケに出るには
今日の私は
あまりに
運がなさ過ぎたッ。
「ちょっとアナタ達。
ウチの前で
何をしているのかしらッ」
”ウチ”の前ッ!?
私の頭上から聴こえてくる
大正ロマンの声に
「……」
オバサンが
恐る恐る顔を上げる。
「先生。スミマセン」
…さっきまで
悔しそうに唇を噛みながら
震えていたヒトとは
思えないぐらい
オバサンは
大正ロマンに
媚びた声色で
話し掛けていてッ。
「たまたま主人が
このマンションに
集荷に来たら
若さまのお部屋の前で
怪しいオンナノコが
ウロウロしてるから、て
教えに来てくれて」
え?
「今、主人とふたりで
捕まえたので
管理人室に
知らせにいこうとしていた
トコロなんですのよ」
って。
もしもしもし?
さりげなく
事実を捻じ曲げられて
いませんかッ。
「あら。アナタ。
おブスのトーコさんじゃ
なくって?」
ギクッ。