廊下を進んでいくと
部屋の中に

まるでカフェのような
西洋風な外観が
しつらえてあって。


ちいさなガラス窓の中

カーテン越しに

ちいさなテーブル席が
見えているッ。


…おいおいおいッ。


中から女給さんとか
出てきても

もう驚きはしませんからね!


本当に

ここまで完璧に
大正時代の街中を

自宅に再現しようと思った
このヒトのアタマの中を
見てみたいッ。


大正ロマンが
カフェのドアを開けると

カラン、コロンと
ドアについたベルが鳴って。


…たいしたモノですッ。


ちいさなドア。

やはり横歩きしながら
私は中に連れ込まれるッ。


「今日は
誰かさんのおかげで

ずいぶん
疲れちゃったから」


夕方からの予定は
全てキャンセルして、って


大正ロマンが
テーブル席で

細いタバコを
ふかし始めた。


「先生。今夜は大臣の…」


「大臣だろうが
王様だろうと

今日はダメ。

お断りしてッ」


メガネっこが
カウンターの中から

ごっつい
顧客名簿らしい
台帳を取り出すと


まあるい穴に指を入れて

くるくると
ダイヤルらしいモノを
回し始める。


…こんなクラシックな電話。

映画やドラマ以外で
初めて見たぞッ。


「ほら。

おブスのトーコさんも
突っ立ってないで」


座りなさいな、と

タバコを
こっちに向けてきたッ。