スプリング♂018
「トーコちゃん。
学校のカバンやコートは
持って帰らなくても
いいのかい?」
エレベーターのホールで
セイの着ていた毛皮を掴んで
エレベーターを待っていた私に
ねずみ〜らんどの先生が
自分の部屋のドアを開けながら
声を掛けてきた。
「……」
ここで
セイの毛皮を掴んでいる
この手を離してしまうと
セイはそのまま
さっさとエレベーターに
乗り込んでしまって
私からどんどん
離れて行ってしまう気がして。
「セイくんの
ケータイとサイフも
このまま僕が預かっていても
構わないんだけど」
先生はそう言うと
さっさとドアを閉めて
自分の部屋に入ってしまう。
「……」
「……」
「…取りに行けば?」
明日、学校に行くのに
困るだろう、って
振り向きもせず
セイは自分の後ろにいる
私に冷たく言い放った。
「…セイだってッ!!
ケータイにサイフ!
ないと困るのは
いっしょじゃないッ」
「……」
「……」
続く沈黙。
エレベーターが
来たというのに
ふたりとも
動こうとはしない。
そんな状態に
痺れを切らしたのは
「そこのふたりッ!
さっさと
荷物を取りに来ないか!」
ねずみ〜らんどの
先生だった。
「そんなに
僕の部屋に来るのが嫌なら
荷物は全部
焼却処分にするからな!」