「実はさあ。
トーコのヤツに
俺の研究室に
着替えを届けるよう
頼んでたんだけど」
間違えて
解剖教室に入って
「貧血を起こして
倒れちゃってさ」
自分が保護しているから
心配しないで、って
セイはまたしても
ママに
ウソをついている。
「お前の学校の友達には
午前中に連絡して
登校途中に
気分が悪くなった、と
先生に伝えてくれ、って
頼んでおいたから」
「……」
あの結婚式場で
大正ロマンに
引きずられるようにして
連れて行かれる私を見て
ご親切にも
そこまで
気を回してくれて
いましたかッ。
セイは
私にそれだけ伝えると
私をリビングに
手招きして。
「……」
私はセイの後を
小走りについていった。
リビングの奥の部屋。
おおきなクローゼットを
セイが開ると
中にはたくさんのコートが
ブティックのように
ハンガーに掛けられていて。
その中に
ひと際
素材の悪さで目立ってる
コートが1着ッ。
「それ、私のッ!!!」
セイの手から
ハンガーごと
コートを取り上げると
「あッ」
コートの中に
隠れるようにして
カバンがハンガーに
吊るされていた。
「テツオが気を回して
シワにならないよう
トーコちゃんのコート
片づけてくれてたみたいだな」