先生が
セイの毛皮を引っ張ると


「うるせえな!」

セイが先生の手を
払いのけようとして


ボタッ。

セイの背中から

何かが
足元にすべり落ちてきた。


あれ?

これって…!


タオルと

「…保冷剤、だよね?」


…熱があるときに
アタマを冷やすヤツだ。


私はやわらかくなっていた
冷たいソレを

拾い上げる。


「そんなモノを
背中に入れていたんだ…」


毛皮を着ていても
平気だったのも
頷ける、なんて

思ったのも一瞬で。


「あのヒトに
イスで殴られたトコロが

相当痛むんだろう」


「!?」

イスで殴られた、って…!


大正ロマンから
私を庇って
くれたときに!?


「セイッ!
怪我してたんだ…!!!」


なのに私ってばッ!!!


そんなコトに
気づきもせず…!


「…あのアンティークのイスの
乾燥具合だと

鉄の棒で殴られるくらいの
衝撃があっただろう?」


殴られたときの音も
尋常じゃなかったし、って

先生は溜息をつきながら
苦笑する。


「診察させて欲しい、と
ストレートに言っても

セイくんは

僕の診察なんか
素直に受け入れては
くれなかっただろ?」


「……」

「知ってるよ。

表面上は
僕との友好関係を
保ちながら

そのハラワタは
煮えくり返っているコト」

「……」

先生の指摘に

セイは同意も否定も
しなかった。