メデゥーサに別れを告げて

床に色とりどりのタイルが
敷き詰められた

同じく黒光りしている石壁の
洗面所で

うやうやしく
手を洗う。


「……」

黒い洗面台のシンクの中も
マッキンキンで。

前にきたときより
洗面所が
パワーアップしてるッ。


黒い洗面台から
アタマを出していた
真っ赤なペーパータオルを
引き出して

濡れた手とシンク周りを
丁寧に拭いた。


ゴミ箱が見当たらないと
思ったら

ペーパータオルの横に
コブシふたつ分の穴が
開いていて。


中を覗くと
使用済みらしい
真っ赤なペーパータオルが
見えるけど。


「…ゴミ。
ココに捨てていいんだよね…」


本当にゴミ箱なのか

ちょっと失礼して
洗面台の引き戸を開けて
確かめてみる。


「…上から見たときは
よくわからなかったけど」


いろんなモノが
ペーパータオルといっしょに
捨ててあって。


「……」

増毛のクスリの
空き箱やら

浣腸やら…。


ワケありの独身男性の
ゴミ箱の中身なんか

けっして
見るモノではないッ。


…パタン。


静かに戸を閉めて。


気持ちを切り替え

掃除用具を探して
洗面所周りの引き戸を

片っ端から開け捲くった。


「ない」

「ないッ」


掃除道具が
どこにも見当たらないッ!