「…先生はどうやって
部屋の中をキレイなまま
キープしているんだろう」


掃除道具が
すぐ出せる場所にないと
いうのに

洗面所は
水垢ひとつなく
キレイな状態で。

曇りひとつない
おおきな鏡。


「…うっかり大胆に
手を洗ってしまったけどッ」


もしかしたら
汚れるのが嫌で

使わないようにして
いるのかもしれない…ッ!!


鏡に跳ね返っていた
水しぶきの跡に気づいて

私はペーパータオルで
慌てて拭き取り

制服の袖で磨いて
誤魔化したッ。


「…」

私は洗面所の
真っ赤なペーパータオルを
何枚か引き出して

水で軽く湿らせる。


…ちいさい頃
セイが考えた

掃除機や
ガムテープを使わずに

取りあえず
ガラスの細かい破片を
取る方法。


その昔。

友達の家に遊びに行って
ふざけていたら

空になっていたコップを
ひとつ割ってしまって。


「ママに怒られる」

友達が
泣き出したモノだから。


ママにバレないように
細心の注意を払って

ティッシュを
水で濡らしてきて

「みんなで地道に
ガラスの破片を拾ったっけ」


…あの頃のセイは
本当にかわいかった。

素直で従順で。


私の為なら
どんなコトでも

「まかせて!」

ふたつ返事で
何とかしてくれて。


「…やたらと
私のマネばかりしたがる
トコロは

嫌いだったけどッ」


私が笑っていたら
いっしょに笑う。

私が泣いていたら
いっしょに泣くような

とっても
わかりやすい子ども
だったのに。


気がつくと

本音が見えない。

何を考えているのか
わからない。


そんな弟になっていた。